鎚起作家 西片亮太 インタビュー Vol.2

清雅堂

作品制作の中核として活躍する西片亮太さんに、工房での作業の様子をはじめ、鎚起銅器の独特の技法や魅力についてお話ししていただきました。

→Vol.1

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https://kamakuraseigado.com/nishikataryota/

時代の変化の中で生き返った技法

西片亮太 作品

鎚起銅器の昔からの技術に、1枚の銅板から注ぎ口を打ち出す “口打ち出し” の湯沸かし”というものがあります。そこから、さらに取手を取り付ける耳という部分まで絞り出す、“耳口打ち出し“という技法があって、その “耳口打ち出し” の技術は、いったんは途切れてしまっていたんです。

けれど、燕市の上彬堂さんの上野彬郎さんという方が、その技術を独自で復活させたんです! 上野さんは、私が口打ち出しをやっていることをご存知だったので、「“耳口打ち出し” をやってみないか?」と声をかけていただきました。それが、2009年のことです。

上野さんは、現在84歳になられます。私の父の兄弟子でもあり、祖父から見ると、弟弟子みたいな方…ご自身が復活させた技術が、またなくなるのがもったいないというのもあって、私が受け継がさせていただきました。

“耳口打ち出し”は、貴重な技術なのですが、あまりにも手間と時間がかかるので、完成した作品に商品として価格をつけると、とても高価になってしまいます。銅だと、40〜50万円、銀だと120万円以上になってしまいます。
なので以前は、口打ち出しのやかんを作っても、「こんな技術があります」という感じで展覧会に出して、みんなに見てもらって、展示が終われば、自分のとこに戻してお終いっていうものだったんですね。

ところが、数年前から日本の工芸品のブームが起こって、海外…とくに台湾や中国から注文が来るようになってきたんです。それまで作ってた湯沸かしが、全て売れてしまって、さらに注文をいただいて……状況としては、どんどん作れるようになるんですけれど、なにしろ時間がかかるので、1年間に4つか5つぐらいしか作れません。作り続けられること、そのものが励みになります。

伝統技術は、守るものではなく挑戦するもの

西片亮太 作品

“口打ち出し” 、“耳口打ち出し”の湯沸かしの制作は、いつも挑戦です。
やるたびに、今まででいちばんいい湯沸かしができたと思って、そのときは作っているんです。けれど、しばらく経つと、「もっと、ああすればよかった、こうすればよかった」というのが出てくるんです。
それで、次のときにその思いを活かして、どうにかクリアして、「よし、これは前よりいいのができた!」とそのときはなるんですけれど、またしばらく経つと「もっと、ああすればよかった、こうすればよかった」となって……それを、繰り返して、繰り返して、繰り返して、ずっと、そういうことを続けているんです。技術の奥深さといいますか、終わりがないんだなと思っています。

この仕事を始めた時から変わらないのは、「とにかく何でも作りたい!」っていう気持ちです。
生活用品、アート的なオブジェ、昔の古い技術を使うもの、今までにない技術を使うもの……なんでも、作っていきたい、作りたいんです。同じ銅という素材で、同じ鎚起銅器の道具を使って、どんな物でも作れるものを作りたい。
今、やっていることでも、まださらに上手になりたいし、今、作っている物も、もっといいものにしたい。技術も物もより良くしていきたいという気持ちが強いです。

西片亮太 作品